「組織には事業の理念というものが必要で、保育園・こども園においても基本理念を構築してこれを基盤に組織づくりを進めていきませんか」

ということを、前職から数えて約15年あまりお伝えし続けてきました。
同時に園内での研修講師として基本理念構築に深く、そして多く関わってきました。

もはや時効だろうと思われるので正直に申し上げると
「基本理念が大切ですから構築して組織づくりを共にお手伝いさせて下さい」
と営業で回っていた当初、私自身本当に基本理念の何たるか等々について正しく理解していたのかどうか・・・実のところかなり怪しいと言わざるを得ません。
15年間毎日のように「基本理念」というものとお付き合いしてきましたので、さすがに今はなんとか見えてきたものの、お恥ずかしながら往時は正しくは理解できていなかったと思います。

保育園・こども園にとって、基本理念とは?

基本理念とは何なのか?誰のためにあるのか?
「基本理念とは何か?」「誰のためにあるのか?」ということを園内研修などで受講者に問いかけてみると、
・組織で働くみんなが同じ方向に向かって進むためにその方向を指し示してくれるもの。
・園が大切にしている想いを明文化したもの。
・園の目的を定めたもの。
・働く職員の共通の価値観
という教科書通りの回答が返ってきます。確かにそこに間違いはないのですが、
何か「わかったようでわからない」ふわっとした感じが否めない気がします。

そして理念とは誰のために存在するのか?との回答を探っていくと、
それは
・園のため
・園で働く職員が共有すべきこと
という回答に至ります。
これも確かにひとつの解として正解なのだと思いますが、どうも一面でしかないなと。
やはりそれだけではないなといつも思います。

基本理念というのは、園のためにもちろん存在するというのは間違いないですが、当然そこで働く職員一人ひとりのためにも存在しますし、
それは何もその組織に所属しているときだけ恩恵を受けるものではなく、その人のその後の人生においても重要な意味をなすものだと私自身思っています。
そのことを上手く伝えて行ければな・・・
恥ずかしながら上手く伝えきれていない私がいます。

入職時に入職先の理念を理解して入職するのが理想ですが・・・
よく職員採用の面接をしていて応募動機を聴いてみると、
「ホームページを見て、基本理念に共感して応募した」ということを言う方がおられるのですが、正直「本当?」と思ってしまいます。
まあそれを「嘘」と決めつけることは良くないことですが・・・。
これも恥ずかしながらのお話ですが、かつて私が22歳で就職活動をし始めた頃、もしくは後に転職活動をしていた頃「基本理念」が就職先を決定づける重要要因であったかと問われると、実のところ全く意識すらしませんでした。

そんなこと「思いもしない」ことだったというのが正直なところで、むしろ私はこちらの方が多数派だとさえ考えています。

基本理念に書かれていること

基本理念には、その園の事業の目的や価値観、大切にしている想いなどが記載されています。

・組織がこの社会の中でどんな役割やポジションを担っていきたいのか。
・利用者にどのような価値を提供していく組織なのか。
・働く職員をいかにとらえ、どう幸せに導いていくのか。

理念にはその組織の事業の目的が明示されています。
つまりは組織の存在意義そのものの宣言です。
加えて、変化の激しい時代にあって「これだけは変えてはならないもの」を明らかにして、それ以外は変化する時代と共に変えていい。
その「変えてもいい」ことも同時に私たちに提示してくれています。

職員にとって基本理念とは

そして働くものの「共通の価値観」という側面。
園が大切にしている価値観が目に見えるかたちで明文化されておらず、なんとなく園長や長年共に歩んだ数名のリーダーの頭や肌感覚の中にしかない場合、一般職員にとっては、今やっていることが園(園長)の価値観に沿っているものかどうか、一々顔色を伺わなければならなくなってしまいます。

それでは何か新しいことにチャレンジしたり、未知の空間に飛び込んでいこうとする意欲を失ってしまうのではないかと思われます。
ですから組織は事業の理念を明示する必要があるのです。
同時に組織のメンバーは、この事業の理念の奥深い意味をも正しく理解し、日々の仕事の中で具現化していくことが重要です。
そうでないと、ただの「絵にかいた餅」となり、組織自らが社会における存在意義を放棄し、せっかく事業理念に期待をもって参画してきた人たちに失望を提供することに陥ります。

利用者にとって基本理念とは

やはり利用者サイドにとって、理念はその組織を選択する一つの重要情報です。その組織や商品にどんな想いが込められているのかということを利用者側が理解できないと、ファンになったり、働く職員として組織の仲間入りをしようとすることは冒険でしかありません。
実際に利用者になってみないと考え方を知れないなんてあまりにリスクが高い。
利用者(就職を志す人)も利用(入職)後に「え?私の考え方と全く違ったの?」では困るわけです。

つまり園の考えや価値観の表明は、双方が事前に理解して利用者とならないと、双方にとって非常に不幸な状況に陥ります。
だから理念構築して、まずは働く職員がみな共有している状態を整え、ここだけは想いを共有して歩もう、そしてみんなでベクトルを合わせて共にこの事業目的を達成していこう!
としていく必要があるのです。

園と職員で基本理念をすり合わせいく

しかし、現実には多くの方が事業理念の存在すら意識せず入職をしているのではないでしょうか。
ただ、先ほど申し上げた通り、働く職員が入職時に事業理念の奥深くを理解し入職するというのが本筋とはいえ、それはごく少数派ではないかと思っています。
ホームページなどで事業理念を掲載している施設も増えていますので、事前に参画者が「なんとなく良さそう」と感じて参画できる土壌はあるものの、やはりそれはあくまで「なんとなくよさそう」程度です。
本質理解には当然及ばない。
まして自身の人生観、仕事観とすり合わせができているとは到底思えない。

では、いつすり合わせていくのか・・・
働く側からの視点で申し上げると、園が考える社会における「こうありたい組織像」と、そこで働く職員が人生において「こうありたい私像」というものが合致すると、双方にとってこの上なく幸せな状態なのだと思います。
プライベートでは自分のしたいことをして、仕事はそのプライベートでしたいことを実現していくための糧を得る場所、と言う人をたまにお見掛けしますが、そうなると仕事は「給料を得る場所」
という位置づけでしかありません。働く側はお金さえ得られればいいので、何か嫌なことがあると転職してしまいます。
それに比し、自身の人生での目的と組織の理念が一致する場合、組織で従事することが自身の人生の目的を実現することと等しくなり、かつ生活の糧としての報酬を得ることができるので、どう考えてもこちらの方が健全だと言えます。

それが入職時にピタリと合致することがベストですが、それはなかなか現実的に難しい。
もう少しいうと、先ほど自戒した通り「理念のことなど初めから考えていなかった」かつての私のような人間にとっては無理ということになります。
ということは、事業の理念というものは、何も考えていなかった入職者にとっては、組織の存在意義や事業の目的に触れ、自身の人生観を見つめる契機とまずは捉えることが現実的だと思います。

基本理念の持つ意味

基本理念は、事業活動を通して浸透を図っていく過程で、仕事の持つすばらしさ、人生の意味について好ましい影響を与えるという機能、人生のすばらしさ自身を伝えていくという機能も持ちうるもの。

「何となく良さそう」と思って入職してきた職員に、事業の理念を染み込ませ、職員が深い共鳴に至った時、彼ら彼女らは自身の人生の目的や今後の歩む道さえ見出すことができます。組織は一人の人生に素晴らしい影響を与えうる存在ということになりますし、それは組織の持つ重要な使命の一つになり得ます。
かつての拙い私のような人間に、人生のすばらしさ、歩むべき道筋を提示し、覚醒させることができた時、それは組織にとって無上の喜びだと思います。
組織が基本理念を明文化し、本質的意味まで共有していくことの意義を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

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