こんにちはSKSの井口です。
私は保育園やこども園などの保育施設でマネジメント研修などの研修の講師をしています。
今回は保育施設で園長先生向けにマネジメントを学ぶことについて書きたいと思います。

前回からの続き記事ですので、前回の記事をまだ読んでいない方はこちらからご覧ください。

保育園、こども園の園長先生にむけ「マネジメントのすすめ」

こんにちはSKSの井口です。私は保育園やこども園などの保育施設でマネジメント研修などの研修の講師をしています。今回は保育施設で園長先生向けにマネジメントを学ぶこと…

保育園、こども園は今のままでいいのか?

「現状、保育園は、それなりにうまく運営できているのだから、特に何か変える必要はない。」

「来るべき少子化が訪れたところで、保育園は社会として必要な施設なのだから、国がなんとかする筈。」

「保育士不足は言われて久しいが、それなりになんとかなっている。」・・・

保育園こども園の園長先生方とお話しているとこんな風なお話をされることがあります。

確かに「生存」が目的であれば、「今のままで良い」と思います。生存することが組織の目的であるならば、です。
もちろん「生存し続けること」それ自体は非常に重要なテーマなのですが。

しかし・・・やはり生存さえできればそれでOKだとは、どうしても思えないのです。

それは、人に例えると「とにかく息さえしていればいい。」ということになります。

しかし・・・やはり私たち人も、息をするため「だけ」に生きている訳ではないはずです。

「いやいや、保育を必要とする利用者の役に立てている。」確かにその側面はあります。けれど、それではあまりに「受身」です。そして、やはり不十分です。そこには、「組織は公器である」という視点がごっそりと抜けてしまっていると思います。私たちは、この社会で共生している存在です。共生する社会における役割を追求しつつ、自らの組織のあり方、その目的の実現を図っていくことこそが、重要なテーマだと思います。そして、預かった人=職員を人間的に成長させ、社会に還していくこと。近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、いわゆる「三方よし」の視点は、いつの世も重要だと思います。

保育園、こども園が事業を行っている理由は?

一体なぜこの事業を行っているのか。

何のために生かされ、この世界において何を実現しようとしているのか。そして、預かった園を何処へ向かわせようとしているのか。集った仲間と、この社会においてどのような地位を占めたいのか。

組織の基本理念構築の前に、園長ご自身が明らかにし、組織を方向付けしていくことが非常に重要なのだとつくづく感じます。

保育園、こども園で職員育成をする難しさ

日常の業務に埋没してしまうと、先を見通すことを忘れてしまうという側面はあります。

「そんなことより、今、目の前の子どもたちと向き合うことが大切」という言葉は、一見「正論」に聞こえますが、園長がこれを発してしまうと「経営の放棄」な気がします。

働く職員の視点で言うと、普段、何もない通常運転の時は、深く園の考え方など気にも留めません。まさか基本理念などという得たいの知れないことに現をぬかすよりも、日々の複雑性への対処を優先しようとします。けれど、時として上から急な方針転換があったり、「隣の園でこんなことをし出したから」「時代の趨勢だから」というだけの理由で新たに業務を上乗せされてしまうと、「一体うちの園は何を考えているんだ?」や「うちの園はどこに向かおうとしているのか?」や、はたまた「園の方針を聞かせてもらいたい」という想いに駆られてしまいます。

結局、誰もが「今行っている意味や方向性」を根底では理解し、納得して歩を進めていきたいと思っているのです。

来るべき少子化の問題等、これからの保育園・こども園を取り巻く環境変化をいかに捉えていくべきか。

保護者の多様な要望への対処、職員育成、リーダー育成、園の個性・カラーの創出、大切にしてきた保育を職員に浸透させ、継承していくための施策等々を示し、発信し、働く仲間を鼓舞していくのは、まさに園長の役割であるはずです。それを一職員と同じ目線で見ているのではいささか心許ない気がします。

これからも、より愛される園づくりのためには、「今」を果敢に変えていく必要があります。

しかし・・・

何か手を打たないといけないのはわかっている。けれど・・・手をつけたところで、上手くいく保証などありません。女性の多い職場で、何かを始めたところで、すぐに人が辞めてしまう。何かをスタートしても、職員育成しても、果たして意味があるのか。

そう逡巡し、なかなか一歩を歩み出せない方も数多くいらっしゃる気がします。

愛される園づくりをするために

大切なのは「未来はどうなるのか?」ではなく、「自身の園をどうしたいのか」「どうありたいのか」です。

リーダーが育たないのであれば「育てる。」

職員の質が低いとお感じであれば「高めるための施策をとる」

行動することでしか、やはり「変化」はありません。

このブログでも、これまで「キャリアパス制度設計」「基本理念構築の必要性」などお話してきました。

キャリアパス制度は、組織づくり・人づくりの観点や、組織の存在意義という視点で捉えても、非常に良い制度です。しかし・・・多くの保育園・こども園では、その本質を正しく理解されていないように感じます。ただ処遇改善Ⅱを受け取るためにカタチだけ整えて終わってしまっているところもたくさんあります。

それは単に「生存する」ことに視点をおいた考え方に囚われてしまっていると思います。

上記への対処、職員のメンタルヘルスの問題、ハラスメントの問題、職員の離職、ひいては、職員のなり手不足の問題など、実は、現在の保育園・こども園における問題の多くはマネジメント不在によるところが大きいと個人的には思っています。

保育園、こども園でなぜリーダー職員が育たないのか?

リーダーが育たないのは、リーダーに責任と権限をしっかりと与えることができていないことが遠因になっている場合が往々にしてあります。職員の資質が低い、モチベ―ションが低いのは、「ここで仕事をする意味」を提示できていないのではないかと検証する必要があります。働き方改革の名の下に、就業時間などに視点が偏ってしまい、最も重要な職員の成長実感の機会が提供できないことも要因だと思っています。

コミュニケーションが円滑でないのは、園の方向性が職員に浸透していないことも一因かもしれないのです。そもそも何について意思疎通を図っていけば良いのかさえ見えない中では、コミュニケーションなど図りようもないかもしれません。

西には西だけの正しさがあるという

東には東の正しさがあるという

何も知らないのは

流離う者ばかり

日毎夜毎変わる風向きに惑うだけ

          -中島みゆき「旅人の歌」

保育園、こども園の園長先生へマネジメントのすすめ

マネジメントを全く理解せず、自身の園が何ものであるかを定義せず、ただ、息をすることだけを考え生きてきた結果、組織と人を惑わせてしまう結果を招いた時、後悔するのは、何を隠そう園長ご自身です。

リーダーがマネジメントを学ぶことも重要ですが、何より園長先生が正しくマネジメントを理解し、園長ご自身のこの社会における役割を明らかにし、園の方向性、仕事を通して関わるメンバーをどこに誘おうとするのか等々を、まずは明らかにされることが肝要だと思っています。

最後に少々長いですが、本の一節を引いて終わりにしたいと思います。

渋井真帆著「何をやってもダメだった私が教わったこと。気づいたこと。実行したこと」(ダイヤモンド社)より-

経営者の役割

「Hさん、おうかがいしたいことがあります」

「何かしら?」

「どうしてそんなに頑張れるんですか?」

一見危機に見えそうな出来事もあくまでも環境変化の一つでしかなく、その変化を危機とするかチャンス

にするのかは自分次第だ!とは、世の中でも言われています。

だけど言うは易しで、行うは難しです。

「どうしてそんなに前向きに、ポジティブに物事をとらえられるのですか? どうしてあきらめて逃げ出し

たくなりそうな出来事でも、踏ん張れるんですか? お2人とも、メンタルトレーニングか何かを受けてい

るのですか? どうしてお2人とも、そんなに強くいられるのですか?」

口元に微笑を浮かべながら、Hさんは言いました。

「私も夫も、そんなに強い人間ではありませんよ。正直を言えば、泣き崩れたい、このまま何もかも放り

投げて逃げ出したいと思ったことは何度もありました」

「それでは、なぜ?」

「経営者だからですよ。経営者の一番の役割は会社を、事業をどんな環境でも存続させていくことです。

そうしなければ、顧客や取引先に迷惑をかける。

われわれ経営者を信じてついてきてくれた従業員たちにも迷惑をかけてしまう。

私と夫は経営者なんです。

つまり、私たちの判断・選択・決断が多くの他人に影響を与える役割を担っているんです」

経営者だから……。彼女はその言葉を何度も言います。

私は彼女の話から、経営者という言葉に含まれているさまざまな役割や責任を感じ始めていました。

「もし経営者が自分たちに都合が悪いことが起きたり、環境変化に直面することを、災厄や不運に見舞わ

れることと捉えたらどうなりますか?

常に自分たちが何かの被害者だと感じていたらどうなりますか?

努力したってどうしようもないというスタンスでいたらどうですか? 経営者がそんなふうに物事に対峙し

ていたら、会社を傾かせてしまいます。

その結果、従業員はどうなるんですか? 従業員には家族もいるんですよ。万が一会社が立ち行かなくなっ

たら、私の会社でも従業員を解雇したりする必要が出てくるでしょう。

だけど大企業のサラリーマン経営者と違って、私たち中小・中堅の経営者たちは、従業員全員の顔を知っ

ている。家族とも顔を合わせたりする機会だってある。そんな顔を知っている人たちを解雇できますか? 家

庭生活を壊すことができますか? できません。

だから、何があっても歯をくいしばらなければいけないんです。言い訳なんて許されないんです。

それが経営者という役割の意義と責任です」

「つらくはないんですか? 投げ出したくならないんですか?」

「つらくなる? とんでもない。経営者になるということは、経営者の役割を受け持つということです。

渋井さん、あなたもそうですよ。事業を起こす、起業するということはそういうことです。この役割の一

番の特徴は、多くの人たち、顧客や取引先、特に従業員たちの人生に対する責任を背負うということです。

自分以外の人たちの幸せに対する責任を背負えるなんて、望んだからといってめったやたらにかなうもの

じゃありません。私も夫も、この責任を自分たちが負えることを誇りにしています」

「他人のために自分を犠牲にしているとは感じないんですか?」

「そんなふうに感じる人は、そもそも経営者という役割には向いていないんです。何度も言うけれど、自

分以外の人たちの幸せに対する責任や役割を背負えるなんて、望んだからといってかなうものじゃないん

ですよ。その責任を与えられ、それを果たしていくために 努力していくことを、私たちは心の底から喜び

と感じています。だから気力も尽きません。あなたは、渋井さん、そう感じられますか?」

Hさんの眼が、私をじっと見据えました。

「そこまで、深く考えたことはありませんでした」

「考えなくてはいけませんよ。本物の、今時の言葉で言えばプロフェッショナルな経営者を目指すのなら

ね」

「プロフェッショナルな経営者……」

その言葉を聞いて、私の胸の中は急にざわめき始めました。

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