こんにちはSKSの井口です。
私は保育園やこども園などの保育施設でマネジメント研修などの研修の講師をしています。
今回は保育施設で園長先生向けに保育園・こども園の「理念」ついて書きたいと思います。
前回からの続き記事ですので、前回の記事をまだ読んでいない方はこちらからご覧ください。
野球チームを例にすると
研修で理念のお話をする際に、私がかつて所属していた草野球チームの例をお話することがあります。
私自身、学校を卒業してからしばらく野球をしていた時期があるのですが、卒業したての頃は体力も気力も充実していましたし、学生のころから野球をしていたメンバーが集まってチームを作り、まさに「勝つ」ために一生懸命練習に励んでいました。
しかし、年齢を重ね、体力気力とも低下する年代に差し掛かると、新しく加わるメンバーの中には「野球って勝つっていうよりも楽しめればいいのやない?」という勢力が増えてきだしました。
当然、チーム創設の頃から「勝つこと」を常に使命だと考えて練習するメンバーもいます。そうすると「同じ野球チーム」なのに、全く「違う価値観」をもったメンバーが混在する状況が生まれます。やがて、それは派閥に発展していくのです。
勝敗にこだわる?単純に楽しむ?どちらも正解
しかし「勝敗にこだわる」という考えも「あくせく練習なんてせず単純に楽しむ」という考えも、双方とも「あり(=正解)」なのです。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではないのです。
問題なのは、同じチームに違う価値観を持つメンバーが混在することです。
そうなると、メンバー間で意思疎通や指導ができなくなります。
プレーに磨きをかけて勝とうとするメンバーは、ミスをしたメンバーに叱咤する場合があります。しかし、野球なんて楽しめばいいと思っているメンバーからすると「そこまで必死にならなくても・・・」となるわけです。やがて、コミュニケーション自体が図れなくなる・・・。こうなるとチームの「全員」が楽しくなくなります。「同じ方向に向かって」歩むチームではないからです。
何者であるかを明らかにする
ですから、チームはまず、自分たちのチームが「何者なのか」を明示することが実はすごく重要なのだと思ったことがあります。
「私たちのチームは「勝ち」にこだわります。なので練習も厳しいです。けれど一生懸命プレーに磨きをかけて勝利を目指す方にとっては「楽しい」チームです。」
とか、
「私たちのチームは、野球を運動不足解消や日頃のストレス発散や、メンバーとの楽しいコミュニケーションの場と位置付けていて、勝つことは二の次という捉え方をしていますので、そんな人にとっては楽しいチームですが一生懸命プレーに磨きをかけようと思っている人には不向きです」
などです。
しかし、この場面で絶対に避けたいのは、「まあまあ、それはその時々に合わせて臨機応変に・・・」「また状況をみながら」「そのうち」という言葉です。
そうしてチームが何を目指し、何を大切にしているのかを表に明示することで、その考えに賛同した人が入ってきます。勝とうというチームは練習も厳しい。これはアナウンス通りですから「えっ?そんな思っていたのと違う!」ということもありません。
楽しもうというチームは無理をせず楽しんでいる。これもアナウンス通りですから、入部後にこのことでトラブルになることはありません。
基本理念を持たない、または共有できていないチームというのは、実は考え方の違うメンバーが混在している野球チームと同じです。
チームメンバーが価値観を共有しないチームは、チーム内での意思統一ができず、派閥ができやすく、チーム内で指導すらできないという状態に陥ってしまうのです。
保育園こども園の基本理念の役割
基本理念とは組織の目的や共通の価値観、大切にしたい想いなどを明文化し、働くすべてのメンバーが想いを一つにして仕事に従事する過程で、自身の仕事観や人生観にまで影響を与えていけるものだということを、前回書きました。
保育園・こども園の基本理念について
保育園・こども園の基本理念 「組織には事業の理念というものが必要で、保育園・こども園においても基本理念を構築してこれを基盤に組織づくり…
また、組織風土を醸成し、それをいわゆる組織文化にまで高めていくための「行動様式」のとりまとめも基本理念をもとにしていくことになります。
その意味でも、やはり組織づくりのスタートは理念の共有だろうと思いますし、明文化そのものが未だなされていなければ明文化からスタートすることが重要たと思います。
そして、組織がこんな職員に成長してほしいという「目指す人物像」や、こんな人に来てほしいという「求める人物像」も大切にしている価値観から当然導かれていくものだと思いますし、職員の一年の振り返りとしての評価シートの細かな項目にまで反映していくことで、組織のトップにとっても職員にとっても一貫した価値観の中で、その成長を図っていくことができるのです。
基本理念の共有は欠かせない
なので、組織づくり人づくりにおいて基本理念の本質的意味の共有は、欠かすことができないものです。
ですから、やや遠回りでも理念構築もしくは共有が重要だと考え、ご提案をしています。
ただ、ごくたまになのですが、上記に書いた「基本理念」や「行動様式」「求める・目指す人物像」について、明らかにすることをためらわれる方がおられます。
それらを明らかにすることは、職員の行動や考え方などを制限してしまうことになり、園の考えとは合致しないということがその主な理由のようです。そして採用の面でも、求める人物像に制限をかけると応募する人が少なくなるのではないか?この保育者採用難時代にあって、採用間口を狭くすることにためらいを感じるということのようです。
一見納得できる意見ではあるのです、が本当にそうなのか・・・。どうにも疑問です。
政党に例えると
例えば、いわゆる「政党」を例にお話すると・・・
政党という言葉を大辞泉で調べたら、
「共通の政治的主義や主張が存在し、政権獲得を目指し、自分たちが目指す世界を実現しようとする組織」と掲載されてました。
つまり、それによると「我が党は、このような考えをもってこんな社会を実現していきたい!」といういわゆる政治理念、構成員共通の価値観というものが存在する筈なんです。これがなければ大辞泉の定義によると「政党」とは呼べないということになります。
しかし、そんなことを言っているとそもそも党所属メンバーが集まらない。または支持者が集まらないなどと言っているとどうなるか…そんなの自明の理です。
どんな社会づくりをしていきたいのかというビジョンを持たない政党に、大切な一票を投じる人がいるとは到底思えませんし、その政党が、不幸にして万が一にも政権を獲った場合でも、構成メンバーが共通の価値観を有していないことから、何ら政策を実現していくことはできないだろうと思われます。
つまり、理念なき政党というものは、外部にあっては「誰にも響かない」そして内部にあっては「まとまらない」ただの「集団」に成り下がってしまうのではないかと思います。
基本理念を明確にしないと
確かに「右」と言えば「no」という人が出てきます。「左」と言えば「no」と言う人がいます。
けれど「右と言われれば右、左かもしれないし・・・まあ臨機応変で」などと言っていると、誰にもヒットしない、誰も見向きもしないということになります。つまり社会における自らの「存在意義」を自らがなくしてしまっている状況です。
そして内部では議論さえできません。そもそも目的地が構成員によって違うのですから、目的地に向かうための議論などかみ合わないで当然です。
どこに向かって議論して良いのか・・・人によってバラバラだからです。
バカバカしい、当たり前のお話かもしれませんが、しかし実際にはこんな組織は数多あるように思います。
そして人が集まらない・・・。
誰にもヒットせず、人が集まらないのでバーの高さを下げて、さらに間口を広げていきます。「ピアノは弾けなくて大丈夫」「書き物はしなくていいです」「残業ありません」「給料は〇〇円」「ボーナスは年〇年」「みんな仲の良い働きやすい職場です」等々です。
パンフレットを作り、職員募集サイトにはどこのサイトを見ても「なんか楽してお金はしっかりもらえそう」な言葉が並びます。
まるで「保育者って楽してお金もらえるんだ」という望んでもいない情報を、園側からわざわざ刷り込んでいるようにさえ映ります。そうすると、当然の結果が待ち受けます。「そんな人」しか集まらないのです。
面接では「残業は?」「給料は?」「有給の取得率は?」という質問責めにあった園長が、辟易と顔を青ざめ、ゆがめています。でも、これはすべて「ご自身が蒔いた種」が花を咲かせただけのことです。
そのことに気付かないとしたら、残念ですが滑稽でしかありません。
そんなお話をすると、
「言うことは理解できる。けど、それは理想論。現実はそんな上手くいかない」と言われます。
確かにそうだと思います。すぐには脱却できません。けれどいつまでこの状態を続けたいのですか?ということなんです。放っておいて状況がよくなるはずもありません。この状況は誰か変えてくれるのか・・・よく「過去と他人は変わらない 変えられるのは・・・」といいますが、まさにそのとおりなのだと思います。この状況はトップのお考え次第で変わるもの、もしくはトップのお考えが変わらなければ変わらないものと確信しています。
計画的に進めていきませんか
但し、性急に変えることは危険です。ですから計画が必要です。
「〇年後には自分たちの園が求める人材を採用できる組織を作ろう」そしてそのための組織づくりと人材育成を行い、〇年後には人材紹介会社から脱却する!」などです。
それで職員にも宣言すればいいのになって思います。
この園をいい園にしたい。人が働きたい、働き続けたいと思える職場づくりをしたい。だからみんなの力を借りたい・・・などです。そして園の職員も巻き込んで、デザインしていくということもあって良いのではないかと思います。
働く職員が働きたい、働き続けたい。そんな職場を作っていくことも園長の使命だと思っています。
株式会社SKS代表。一般社団法人保育者人づくり協会代表。
全国約500ケ園での保育園・こども園の職員向け研修でのマネジメント講師。保育園の組織づくり人づくりのためのサポート。キャリアパス制度設計コンサルティングなどを担当。愛知県保育士等キャリアアップ研修マネジメント分野講師。奈良県保育士等キャリアアップ研修マネジメント分野講師。
株式会社SKSは保育園・幼稚園・認定こども園の
研修やコンサルティングを行っています。
園長先生の組織に関するお悩み解決のサポートをします。