園長先生 リーダーが育たない
園長先生 もっとリーダーに育ってほしい

とお考えの園長先生が多いのではないでしょうか。
リーダー育成の必要性を感じておられる園長は、「何らかの目的のために」リーダー育成の必要性を捉えている筈です。一言でいうと「園の保育の質的な向上」ということなのでしょうが、そこには様々な思いがある筈です。
今回は、保育園、こども園の経営者、園長先生向けに、リーダー育成に必要な「組織形態」について解説します。
最初に1つ問題を出します。皆さんも一緒に考えてみてください。

【問】
「良い組織づくり・良いリーダーシップの発揮」=「正しいマネジメント知識」+「(  )」+「実践」

良い組織づくりには正しいマネジメントの知識と、習得した知識を実践に活かすことが必要です。しかし、それだけでうまくいくのか・・・といえば、決してそうはならないのが現状です。
実は、そこにはもう一つ重要なピースが必要なのです。

「園長・主任それ以下のセンターコントロール型組織」と「権限委譲ピラミッド型組織」

組織形態にはいくつかの形態がありますが、ここでは大きく2つの組織形態を考えたいと思います。


一つは、「園長・主任その他のセンターコントロール型組織」(以下「園長・主任その他型」という)。そして、もう一つは「権限委譲ピラミッド型」(以下「権限委譲型」という)です。
順を追って見ていきましょう。

(1)「園長・主任その他型」

主に保育や業務における指示・命令は園長・主任が行い、リーダーやメンバーは、横一列、ほぼフラット状態で、園長・主任から降りてきた指示・命令をこなしていくという組織形態です。

(画像:園長・その他)

(2)「権限委譲型」

園長と主任の下にリーダーを配置し、リーダーに責任と権限を委譲し、リーダーにメンバーをマネジメントさせる組織形態です。

これはあくまで私の経験上ですが、多くの園は「園長・主任その他型」ではないかと思われます。
しかし、実はこの形態の組織型では、リーダーは「育たない」。「育ちようがない」のです。
以下、詳しくそれぞれの形態のメリット、デメリットを見ていくことにしましょう。

「園長・主任それ以下のセンターコントロール型組織」と「権限委譲ピラミッド型組織」それぞれの組織形態の利点と課題

「園長・主任・その他型組織」

組織の形態として、園長と主任の「指示・命令」に、リーダーやメンバーが「従う」という組織形態です。
リーダーは名ばかりで、メンバーとほぼフラットです。実際にメンバー指導しようとしても、園長・主任から直接メンバーに指導が入るため、リーダー自身の育成は何の意味もなしません。
つまり、常に指導者である園長・主任の指示・命令に従って行動しているという状態です。
リーダーやメンバーは「右と言われたから右にする」「左と言われたので左にする」。
そこに「何故?」は生まれづらい。
そして、この指示・命令を聞けて、従順に行動に反映できる職員が「優秀な」職員ということになります。
では、この型のメリットとデメリットを見ていきます。

(メリット)

園長・主任の指示を瞬時に具現化していくには最適。
職員は、手足として動くだけなので、「間違いがない」。
回りくどい職員育成をする必要がなく、園長・主任にとって「楽」。
職員の資質が高くなくても、ある一定程度の質的提供ができる組織にまではもっていくことが可能。

(デメリット)

職員は指示・命令に従っていればいいので、考える必要がない。
園長・主任の指示・命令に従っているだけなので、園長や主任が交代した後に園が大切にしてきた想いを継承することは難しい。
何か不具合があった場合、あくまで園長・主任の「指示に従って実行しただけ」なので、職員は責任を感じる必要がない。無責任な職員を生む土壌。
レギュラーな事態が発生し、早急な判断・行動を求められる場面においても指示なしでは動けない。
リーダーに任命する実益がない。(リーダーもメンバーと実質的には同じ)つまり、当然の帰結として「リーダーが育たない。」
職員は、園長・主任に「右」と言われたから「右」にしただけ。「左」と言われたので「左」にしただけです。そこに「何故?」はありません。「言われたから」です。
当然、過去「同じような事案で指導されたことでさえ」次の場面でどう動けば良いかなど理解できる筈がありません。ここで「何度言ったらわかるの!」はお門違いというものです。これは「学習できない職員側に問題がある」のでも、その職員の「能力」に問題があるのでも、また「ゆとり教育」に問題があるのではありません。そう「しつけ」た側、つまり園長・主任側の責任です。いわゆるカーナビと運転者の関係がこれです。(過去に一度カーナビにナビゲートされたルートであっても、またナビゲートされないとたどり着けない。)
当然職員は無責任になります。自身で考え、行動、活躍するフィールドがなく成長実感を得る機会は限定的です。「やりがい」は「成長実感」から得られるところが多いことを鑑みた場合、職員のやりがい創出など不可能です。やがて職員は悶々とします。加えて、園が大切にしてきた思いを継承などできる筈がないのです。考える機会を奪って従わせた分、職員に成長は見られない。ここにリーダー育成も職員育成も存在しません。あるのは園長・主任の価値観のおしつけだけです。その指示・命令を指導や育成と勘違いしてしまっているのかもしれません。こうなるとチームはあるレベルまで実績を出せたとしても、そこで壁にぶち当たり、それ以上の成果は出せなくなります。
しかし、この型は、園長・主任にとっては、ある意味で「楽」なのです。
ただ、その「楽」はあくまで刹那的で、先述したとおり「無責任」な組織風土を醸成してしまう傾向にあり、かつ、同じことを何度も言わねばならず、自ら考えて行動する職員が生まれることはありません。よって、中長期的には園長・主任のフラストレーションが溜まってくることが予想されます。

「権限委譲型組織」(ピラミッド型、リーダーやメンバーに責任と権限を与え、メンバーの自立を促す組織)

権限委譲型組織は、園長・主任というトップ層の下に、リーダー層を配置します。


「統制範囲の限界」を踏まえ(一人が管理できるメンバーの数は6名~8名というもの)つつ、私個人の経験値からも検討した際、一般的な今日の組織では、一人がマネジメントできるメンバーの数は、6人程度が限界ではないかと思っています。
そうすると、30名の組織には、少なくとも4名のリーダーを配置しないとメンバー一人ひとりを育成・マネジメントしていく組織には至りません。
園長・主任はリーダーに責任と権限を付与します。
園長と主任が相談し、最終的に園長が意思決定したことを主任はリーダーに託し、リーダーは正しくその意味を理解した上で、自身の言葉でメンバーに伝え、指導していきます。この場面でメンバー育成の責任者はリーダーです。リーダーがメンバ-育成する過程に主任が加わり、主任は間接的に全職員を管理するという形態を取ります。
では、この型のメリットとデメリットを見ていきましょう。

(メリット)

リーダーに役割と責任と権限を与えることでリーダーの育成が可能。
リーダーはトップから下りてくる指示・命令を自身の言葉でメンバーに働きかけることで、トップの「何故?」を常に理解することを求められ、リーダーとしての責任感、園方針等の理解、仕事観などの醸成が進む。
リーダーやメンバーが自ら考え行動できる風土を醸成することができ、メンバーが能動的に行動できる職場風土を整えることが可能になる。
園長の想いを正しく理解した職員による、「想いの継承」が可能。
一人ひとりのメンバーの持っている能力を効果的に引き出すことができる。

(デメリット)

単なる指示・命令よりも、時間をかけて意図などを伝達する必要があり、かつ、常に「何故」を伝えねばならず、時間がかかり、回りくどく面倒。(何よりも園長・主任に時間と体力が必要となる。)
トップの想いとリーダーの理解に「ズレ」がある場合、メンバーに正しく意図が反映されない可能性がある。
マネジメントラインが「複数」になってしまう可能性があり、組織が機能不全に陥る危険性があるので(リーダーからメンバーへの指令というラインと、園長もしくは主任からメンバーへの指導というラインの複数になる可能性がある。)正しい組織理解や、マネジメントラインについてメンバー全員が正しく理解することが重要になる。
ということが挙げられます。

「園長・主任その他型」組織から「権限委譲型」組織へ

マネジメント研修でお話する内容は、後者の「権限委譲型組織」を前提にしています。
リーダーのマネジメント研修というのは、「できない部下をリーダーが育成してあげる」というのではなく、リーダーに役割と権限を与え、「思い通りにいかない後輩」の育成・指導をリーダーに委ねることで、リーダーが自身を振り返り、自らの成長につなげていくと共に、リーダーという役割行動を通して、園方針の理解、保育観、仕事観を培っていくことをねらいとしています。
メンバー一人ひとりの良いところを引き出し、能力開発と人間的成長を図ることにより、組織の構成メンバーの強みを引き出し、園の質的向上を図っていくことが可能になるのです。
残念ながら「園長・主任・その他型組織」では、このようなことは実現できません。

【解】
「良い組織づくり・良いリーダーシップの発揮」=「正しいマネジメント知識」+「権限委譲型組織」+「実践」

繰り返しになりますが、園長・主任・その他型組織(フラット型な組織)は、「リーダーが育つ土壌になく、リーダーが育たない」仕組みと言えます。
この状況でいくらリーダーにマネジメントを学ばせ、「成長しろ、成長しろ」といっても育つはずがないのです。

「園長・主任その他型」組織から「権限委譲型」組織へ移行しリーダー育成を進めるには

園長先生が、リーダーやメンバーの自律的な成長を願い、やりがいをもって仕事に取り組み、かつ自園の大切な想いを今後も引き継いでいってほしいと真にお考えであれば、権限委譲型組織へ移行していくことが重要です。
その上で、リーダーを招集し、責任と権限を与え、同じ想いで歩んでいける組織づくりのために何を学び、どう歩を進めていけば良いかを考える場として園内リーダーを招集した勉強会(研修)を開催するべきだと考えています。
園長・主任のみで、「園長・主任、その他型組織」を「権限委譲型」に移行させるのは現実的には難しいと思われます。この段階からリーダーメンバーを巻き込み、これからのあるべき組織について勉強会(研修)の中でやりとりするというのが好ましいと思います。
マネジメント知識を得るためだけであれば集合型研修でも可能ですが、園内研修でしか導き出せない、園内研修の最大の利点は、実はここにあります。
当然サポート側のわれわれ研修実施者も、園長とこの想いを共有し、先導していくという姿勢がなければなりません。私自身、この関係性を共に築き、より良き園の未来を共に描いていきたいと心から願っています。

株式会社SKSは人材育成コンサルティングと能力開発研修で
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