こんにちはSKSの井口です。
私は保育園やこども園などの保育施設でマネジメント研修などの研修の講師をしています。
今回は保育施設で園長や主任、リーダーなど後輩育成を担当する方向けに
園の基本理念を再考する、自園を改めて定義づけるポイントについて書きたいと思います。一緒に考えていきましょう。
私たちは保育園・こども園で働いているんだから、保育だけしていればよい。
目の前の子どもたちの幸せを見つめていれば、結果それが社会の役に立つことにつながる。
目の前の保育を、とにかく子どもたちのことを最優先に見つめていればいい
みなさんはどのように考えますか?
園内研修をしていると、このような方に出会うことがあります。
私は保育園・こども園において、「保育」以外のテーマで研修をしている身なので、気になる部分です。
もし、これを園の先輩から言われたら後輩職員はどう思うでしょうか。
後輩職員は強く納得するのではないかと思うのですが…
いたずらに後輩の仕事観を狭めてしまうのではないかと感じます。
園のリーダー的立場にある人の職員の影響力は絶大です。
そういう意味では、安易には語ってほしくないなと感じます。

保育園・こども園の基本理念の明文化(再構築)研修では…


保育園・こども園での園内研修、特にリーダー養成の一環として、基本理念の明文化(再構築)を題材にすることがあります。
今一度、自園の基本理念というものを見つめ直し、その制作過程で、そもそも組織とは何か?や保育園・こども園の社会的な使命とは?や、自園の社会における役割、存在意義を見つめるということを通しながら、リーダーとしてのを高めていくというものです。
保育園・こども園の「利用者は誰か」ドラッカーの「マネジメント」を参考に考えてみましょう
その冒頭、まずは皆さんで自園の基本理念を考えてみましょうということでスタートするのですが、保育園・こども園の目的や社会的使命とは何かを考えるに際してまず最初に当たる壁が、私たちの園の「利用者は誰か」というテーマです。
ドラッカーの「マネジメント」には、以下のようにあります。
企業の目的と使命を定義するとき、出発点はひとつしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される(p.23)
つまり、自らの組織の「顧客」が誰で、どんな人なのかによって、自分たちの事業が何を為すべきかが見えてくるということです。
ですから、保育園・こども園における基本理念の出発点も、「利用者は誰か」・・・という話を最初にします。

園の利用者は?

では、園の利用者(仕事の対象)は?という問いに対して
こども
保護者
という回答が帰ってくることが圧倒的に多いです。
日々、直接向き合う利用者としてイメージしやすいので当然と言えば当然です。
しかし・・・これだけではないはずです。
この「顧客(利用者)」をどう定義するかによって、事業の目的や使命は明らかに変わってくるので、非常に重要なテーマです。
ですから、私の場合は、基本理念策定においても、多くの時間をここに費やすことになります。
よく出会うのは、
「保育園の利用者は子どもと保護者」「子どものことを最優先に考える」「すべて子どもにとって何か良いかを優先する」という言葉です。
ここからスタートするのはかまわないのですが・・・。
働く職員の幸せや成長をどう考えますか?
もし、保育園・こども園の利用者は「子ども」で「子どものことが何よりも優先される」となってしまうと、そこで働く職員の幸せや成長をどう考えますか?
職員の幸せは子どもより大切でないと理解できてしまいかねません。
園で地域子育て支援をしている意味は?
地域の方にも挨拶をしようと職員に伝えている意味は?
そして、実習生を受け入れたり、職場体験で中学生を受け入れている意味をどう捉えたらよいか・・・。等はいかがでしょう?
そんな質問をぶつけた時も、
「子どもたちのことを一番に考えて、職員が保育することで職員の成長につながる」
「地域の方々との信頼関係を構築することが、子どもたちにためになる」
なので、子どもたちのことを一番に考えて保育をすることが「重要なのだ」と・・・返ってきます。
しかし・・・それでは、
働く職員は「こどもたちのために成長しなければならない」存在になります。
地域の方にも、子どもたちが幸せになるための関係性の構築になってしまいます。
どちらも、「子どもたちのため」であり、直接的な「職員のため」でも「地域の方々のため」でもなくなります。
そして、「子どもたちにとって一番」を考えた場合、未熟な実習生の受け入れは危ういですね。
職場体験などもっての他かもしれませんし、何より「余計なこと」「面倒なこと」になってしまいかねません。
果たしてそうだろうか・・・?

社会の一員としての役割

ドラッカーのマネジメントのP.9「マネジメントの役割」には、
企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。
組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は、目的ではなく手段である。したがって問題は、「その組織は何か」ではない。「その組織は何をなすべきか。機能は何か」である。(p.9)
さらには、マネジメントの「顧客は誰か」の頁には、
したがって「顧客は誰か」との問いにこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。やさしい問題ではない。まして答えのわかりきった問いではない。しかるにこの問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。
もちろん、消費者すなわち財やサービスの最終利用者は顧客である。だが、消費者だけが顧客ではない。顧客は常に一種類ではない。顧客によって、期待や価値観は異なる。買うものも異なる。(p.23)
と続きます。
私たちは社会の一員として、この社会で生かされ、社会において何らかの役割を担っている筈です。
そして、それぞれがそれぞれの「機能」を活かしながら、社会の中で一つの役割を果たす存在なのだということから出発することが健全なような気がしています。
社会で共生するすべての人が、それぞれに社会的な役割や使命を持っているからこそ、社会は円滑に流れているのだと思います。
このコロナ禍で、自らも感染の危機に瀕しながら必死に看護を続けている医療従事者の存在も、彼ら、彼女らが、それぞれの社会的使命を感じていてくれているが故、だと思います。
そして、こんな時にも食料を届けてくれる生産者や、それを食事として提供してくれる店舗、販売してくれるスーパーの従業員の方が存在するからこそ、私たちはこうして生きていけるのです。
皆さんがそれぞれに社会の一機能としてそれぞれのエリアでその役割を果たしているのです。

私たち保育者の社会の中での役割

保育園・こども園で働く職員にとっても他の職業と同じように、保育園・こども園という「機能」を使って、社会の中で何らかの役割があります。
保育の専門的知識やスキルを持った保育者のいる保育園・こども園という施設・・・
その機能を使って、どのように社会で共存する人の役に立つことができるでしょうか。
保育を志す実習生には、
保育という仕事の意味を伝えることができる。
とか、
職場体験の中学生には、
保育という仕事のすばらしさを伝える機会を作ることができる。
とか、
地域の方々には、
ここに保育園があることで、生きる希望を届けることができる。
そして、
働く職員には、
チーム力のすばらしさや、努力することの尊さ、そして、保育の仕事の尊さや、仕事を通して人間的な成長を図る場を提供することができる。
私たちは、この「保育」という仕事を通して、多くの人々の、社会の役に立つことができます。
それが自分たち自身の存在意義になっていきます。
保育園・こども園の基本理念と社会的役割の具体例
例えば、
「私たちの園の使命は、“保育のすばらしさ”を社会に伝えていくことです。
保育力を通して、社会に貢献します。」
だと仮に設定してみましょう。
そうすると仕事の視点が変わりませんか。
子どもたちにとって、
日々の保育を通して、素晴らしい保育の人的環境として私たち自身が成長して、そしていつか私たちのような保育者になってくれる子が育ってくれるといいな!
であるとか、
保護者の方にも、
こうすればもっと「子育ての楽しさ」を伝えることができる筈!とか、
実習生には、これからの仕事がワクワクしていくように指導しよう!や、
職場体験の学生には、
保育ってすごい!を実感してもらえる機会にしよう・・・などと考えることができるのだと思っています。
だからこそ・・・地域の方への挨拶なんて「当たり前」のこと。基本行動なんて当たり前のこと。そして、園内でのチームワークなんて当然のこと・・・つまり、これまでは「しなければならな」かったことが、「して当然のこと」になるのです。
だからこそ、実習生や職場体験の受け入れに闘志を燃やすことができたりするのだと思います。
「保育」という仕事の定義を「狭く」解するのではなく、俯瞰して捉え、定義してみることで、自分たちの仕事の意義をより見出すことにつながります。
また、みなさんの仕事の「誇り」にも通じていくのではないかと思っています。
園の基本理念を再考する、つまり自園を改めて定義づける際には大切なポイントではないかと思っています。

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