保育園・こども園で「採用が難しい」という言葉を聞いて早や数年が経ちます。

採用難という問題は、「職員の定着」同様深刻で、今後も園にとっての大きな課題と言えそうです。

本記事では、保育園・こども園の採用難の原因と重要なポイントについて、ハーズバーグの二要因理論に基づき解説します。

また、保育園・こども園での採用に関する実際の声や実践的なアイデアも紹介します。

保育園・こども園の採用に関する課題を解決するためのヒントをお探しの方は、ぜひ本記事をご覧ください。

保育園・こども園の採用難の原因は?「人がそもそも来ない→採用のハードルを上げるとさらに来ない」

 だからこそ「採用ハードルを下げる」+「働く環境を望ましいものにする」は果たして正解か。

採用難について、園長先生方からお話をお伺いする機会は実に多いです。

採用については、

「贅沢など言っていられない。そもそも人が来ないのだから、来た人を採用する以外ない」

「ピアノが弾けるなんてことを求めると、応募さえなくなる」

「残業時間を無くし、年間休日を増やすなどしないと応募がない」

といったことを耳にします。確かに「そこ」で選択している学生もいると思います。

そこに同調することは「悪いことではない」とも言えますが、問題は、果たして「それが自園が本当に求める人材」採用なのかということです。

客観的に拝見していますと、何処か「受け身」な採用に陥っている気もしないではありません。

「本当はそんな人を求めている筈はないけれど、そんなこと言っている場合ではないから仕方ないではないか」そう聞こえるのです。

この現象は、有名なハーズバーグの「二要因理論」で言うところの「衛生要因(ハイジーンファクタ)」に傾いていた採用のように私自身は受け止めています。(「二要因理論」については以下参照)

保育園・こども園の採用難の本当の原因は?ハーズバーグの二要因理論

アメリカの臨床心理学者ハーズバーグは、仕事へのモチベーションを決める要因はどのようなものなのかということに興味を持ち、人は仕事においてどんなことで「満足」を感じ、どんなことで「不満足」を引き起こすのか。約200名の技師と会計職員に面接し、仕事の上で特に幸福と感じたり不幸と感じた時に、同時にどのようなことが身辺に起こっていたかを詳しく調査し,その身辺に起こった事柄を、その内容によって、

「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」

「会社の政策と管理」「監督技術」「給料」「監督者との対人関係」「作業条件」

の10項目に分け、この10項目が満足体験の原因となった比率、不満足体験の原因となった比率を計算した結果、

□「達成」から「昇進」までは、満足体験の原因となった比率のほうが不満足体験の原因となった比率よりも大きい。

□「会社の政策と管理」以下は、不満足体験の原因となった比率のほうが満足体験の原因となった比率よりも大きい

ということがわかった、と。

そして、

□「達成」から「昇進」までの5項目を、人々に満足を与える要因として、「動機づけ原因」(モチベータ)

□「会社の政策と管理」以下の5項目を、人々に不満を起こさせる要因として「衛生要因」(ハイジン・ファクタ)と命名したのです。

どういうことかというと、

仕事上での「満足感」は動機づけ要因から生まれるということ。

仕事上での不満は動機づけ要因、衛生要因の双方から生まれるということ。

衛生要因が満たされないと不満の原因にはなるが、満たされたからといって、満足感の要因にはなりにくいということです。

衛生要因(ハイジンファクタ)としての、

「会社の政策と管理」「監督技術」「給料」「監督者との対人関係」「作業条件」

は、ある程度満たさないと不満の原因になるが、満たしたからといって「やる気」には繋がりにくいということです。簡単に言うと、頑張ってくれているし、もっとやる気になってもらいたいから給料を上げるという場面はよくありがちですが、実は、給料が少ないのは「不満」だけれど、それが満たされると「不満の原因」は解消されるけれど、「だから明日から仕事頑張るぞ」とはなリづらいということです。

つまり、職員の「やる気」を喚起するには、「衛生要因については整備を図りつつ」、「動機付け要因にこそ目を向け満たしていく」ことが重要ということになります。

「残業0です」「給料は他より高いです」「アットホームな雰囲気な園です」「ピアノや書き物は無理にしなくてもいいです」等々。

確かにその環境は満たしてあげる必要がありますが(ピアノ、書き物不要は疑問)、本当やる気のある職員を採用したいと考えるなら、動機付け要因へのアプローチに着眼する必要がありそうです。つまりは「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」を満たすことにもっと着眼するということです。

  • 保育という仕事の持つ社会的な意義
  • チームで仕事をすることで得られる「達成感」や「承認」
  • そのために、職員の成長やスキルの向上が不可欠なこと。
  • 職員ひとりひとりを活かし成長していくことを見つめている園

という点に、より着眼した採用を行うことが重要ではないかと思っています。そうすると、まさか「ピアノは問いません」というアプローチは、個人的にはあまり好ましいと思えないのです。

「職員の採用・教育」においても、動機づけ要因が重要

私たちの園は、

①「こんな想い(こと)を大切にしている園」で、「保育という仕事は非常に尊い仕事」だからこそ、

② 職員には、

「こんなこと(スキル)を求める(例:ピアノは入職時には少なくともここまで弾けていてほしい)」や

「こんなスキルを将来的には身につけて戦力になってほしい(保育の最低限の知識やスキルはもちろん、社会人として、組織人としてのスキル、特にチームワークを重視している等)」

を明らかにすることこそが重要なのではないでしょうか。

そして、

③ そのための「教育制度」や「人事制度」として、

「園内での能力開発のための研修会や、保育能力向上のための研修会としてこのようなものを用意している」や、

「園内のキャリアパス制度はこのようになっていて、毎年の目標や成長を感じながら、ありたい保育者像に向けて成長していく制度」を用意している。

・・・というような体系立てた整備を行う必要があるものと考えます。

二要因理論の言う「動機付け要因」に着目し、採用難や離職の問題について、園が主体的に捉えていくことこそ重要ではないかと考えています。

よく、職員採用の場面でも、「私たちの園は、こどもたちのためにこんな保育を行っているのです」ということをことさらに強調される園が多い傾向にありますが、応募する職員側としては、自身の人生を預ける園が「私のことをどう考え、活かしてくれるのか」にこそ興味があるのではないでしょうか。

さらに、

職員が「責任」や「役割」を与えられ、自身が園にとって必要な存在だと自覚でき、チームとしての達成感を感じるに至った時、職員自身のモチベーションの向上に繋がり、「ここで働きたい」に繋げていくことができるものと考えます。

まとめ

保育園・こども園においては、実のところ衛生要因の部分はかなり整備が進んでいるように感じています。(未だ持ち帰り仕事などが多い園は別ですが)だからこそ、動機付け要因にもっと着眼しアプローチすることが重要なのだと思います。

今の採用難をマイナス要因と捉え、衛生要因にばかり着眼してしまうことは、本質を見失うことにならないか、今一度検証なさってみてはいかがでしょうか。

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