今回は、保育園、こども園の園長先生向けに
キャリアパス導入、処遇改善Ⅱを受給する上で配置が必要となる、副主任(格)と、副主任を含めた園内における役割と権限についてお話したいと思います。

「副主任」を拝命したものの・・・

ここのところ、園内研修やキャリアアップ研修を通じて、皆さんから質問をよく頂戴するところです。
悩んでおられる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

国から殊遇改善Ⅱを受給するに際して、園内に「副主任(格)」や「専門リーダー職(格)」を設置することが求められるのは、皆さんご承知のとおりかと存知ます。
多くの園では、新たに副主任を設置し、4万円の処遇改善費を支給することについて、いろいろと議論のあるところかと思います。

以前、ブログで少し触れたことですが、この問題は、キャリアパスの正しい理解や、組織づくり、マネジメント知識などを備えた上で捉えると、さほど難解なものではないのですが、それらを完全にスルーして、眼前に迫る「処遇改善Ⅱ」と対峙しようとした場合、敵はなかなか手強いものがあり、かつ失敗を犯す要素を秘めています。

「処遇改善Ⅱを受給し、職員に支給しなければならない」
→「副主任、専門リーダーを設置しなければならない」
→「副主任は最低一人設置」
→「さしずめ年功序列に従って任命、支給決定する」

このような流れに陥ってしまっておられる園がほとんどではないでしょうか。
そして、「喉元を過ぎれば・・・なんてことない」
これが周囲の園に伝播していく・・・そんな構図になっている気がします。本当に残念です。

実はここには、大きく2つの問題があります。

「副主任」と処遇改善の問題


1つは、「副主任」に付与する役割と権限、責任が明らかにされていない」点。
もう一つは、副主任任命に至るルールの欠如と、「年功序列型組織と賃金体系を事実上固定化してしまうに至る」点です。

まずは、副主任の役割と権限について明示されていないことについてですが、
実際に「副主任」や「専門リーダー」に任命された方からの声で多いのは、
「副主任」「専門リーダー」に任命されても、何も変わらないし、そもそも役割が見えないし、何をしなければならないかわからないという意見です。
どうも消化不良を起こしておられる方が大半です。そして、園長にも言えない・・・

4万円支給されるに際して、園長に呼ばれ、支給するのだから、もっと自覚を持って仕事してほしいと言われたという職員もいます。あきらかにプレッシャーは感じます。しかし、活躍できる役割も権限も与えられていないとすると、モヤモヤ感と責任感のみが重くのしかかり、頑張ろうとしても、頑張るフィールドが与えられていない・・・モチベーション低下要因になるだろうことは明らかです。

もう一つの問題は、運用ルールがないことから、年功序列型組織を固定化してしまうことになる危険性で、これが職員の向上意欲を低下させてしまうのではないか・・・という危惧です。

副主任選任のための「ルール」がない場合、どのような選任過程を経るかというと、それは、ほぼ「経験」でしかないのだろうとお察しいたします。そうでないと他を納得させることができないからです。
もちろん経験も重要です。経験を否定しているわけではありません。しかし・・・経験のみですべてが決定されると、もはや配下の職員は、自身より経験値の高い職員がたくさんいると、上に登っていけない・・・。
いくら頑張ったところで、先輩がいる限り、希望は見いだせません。
一度「副主任(格)」を付与された者は、きっと主任が退職でもしない限り、未来永劫「副主任」として4万円受給枠に居座り続けます。配下の職員はどう頑張ろうが、副主任格として取り上げてくれる見込みがない。別に4万円がほしいとか、そういうことでなくとも、自身が成長していく道がほぼ閉ざされることに愕然とするのだと思います。つまり、頑張ろうが、頑張るまいが、園内序列は一切変わらないことが決定的になるのです。
当然向上意欲は萎んでいきます。最悪の場合、有望な中堅どころが、他園へ転出していってしまうことを誘発しかねません。こうなると、もはや「本末転倒」です。

つまり・・・運用ルールが存在しない安易な受給が問題

キャリアパス制度を構築し運用ルールを決めましょう
園でキャリアパス制度を構築し、運用していく過程でステップアップした職員に、副主任格、専門リーダーや専門主任として役割や権限を付与し、その上に国の処遇改善費を受け取るという順であれば、このあたりの問題はおきません。処遇改善Ⅱのみを受給し、4万円枠を一人作らないといけないという理由だけで、安易にベテランを選任してしまう・・・。つまり、「運用ルールがない」ことが問題なのです。

本来、国が園にキャリアパス導入を推進する理由は、

・職員の自律的成長をサポートする。→セカンドキャリアを見据えたサポート→保育士という職への魅力増大
職員自身の成長実感(段階的にステップが見える化)→やりがいの創出
園の質的向上へ寄与
の筈です。しかし、実質は、手当をもらうためだけの制度に成り下がってしまっているということです。

多くの園で、職員の質の低下や、保育士のなり手不足→採用の厳しさや、その根本的な要因の一つとしての給与水準の低さなどを耳にします。それを国が解決に導こうと旗を振っているにも関わらず、その機会を捉えることなく、受動的、義務的に手当を支給しなければ「ならない」と安易に受給のみに走ることは、本当に残念な気がしています。

結果与えられる報酬を自ら求めて得るべき報酬と勘違いしてしまうことの残念さ。

仕事の報酬


最近、キャリアアップ研修で多くの方にお出会いする機会があるのですが、「私はあと一つ」「私はこれで4つです」などと、研修ポイント制の如く捉えておられる方がおられるのも事実です。
田坂広志氏が、著書「仕事の報酬とは何か」(PHP文庫)で、仕事から得られる報酬について、
「自ら求めて得るべき報酬」と「結果として与えられる報酬」を混同、もしくは誤って解釈してしまっている方がいると述べていますが、まさにその通りだと感じます。
つまり、本来手当という報酬は、良い仕事やすぐれた仕事をした「結果として与えられる報酬」のはずです。それを「自ら求めて得るべき報酬」と誤解しているのです。
もうこうなると、当初国が想定していた「意図」は脆くも崩れ去ってしまいます。
そして、単に「お金をばらまく制度」に陥ってしまいます。
残念だなとつくづく感じます。

原点に立ち戻って構築していきませんか

もし、このようなことに陥ってしまっている場合、「元」に戻すことを強くお勧めします。
そして、園として独自のキャリアパス制度を構築し、本来の意図に沿った運用をすべきです。
そして、運用する過程で、「副主任」という役割を設置し、そのものに責任と権限を与えるべきです。
そうしなければ、どんどん園の地番沈下が進行していくように思えてなりません。

「船頭多くして船山にのぼる」

園長の配下に主任を配置し、主任の配下に副主任を配置し・・・それぞれの権限が明らかにされていないと、末端職員は「偉いさんが多くなって大変」です。
時に、指揮命令系統が複雑になり、報告先も多くなり、ただでさえ大変な業務が余計、意味もなく煩雑になることに辟易とするのです。
そもそも処遇改善Ⅱを受給するかどうかは園次第です。そこで受給すると決定した以上(=キャリアパスを導入すると決定した以上)キャリアパス制度を構築し、副主任や専門リーダーの役割と権限を明らかにし、彼ら、彼女たちが活躍できる場を整えてあげることが重要です。

キャリアパス制度は「人間的成長」のため

「でも、処遇改善Ⅱの制度はいつまであるかわからない。いつまで続くかわからない制度を捉えて、構築などしていられない」というお声もお伺いすることがあります。しかし、それは、上述した通り、
「処遇改善Ⅱを受給するために副主任を選任する」思考のなせる業です。

本来あるべき姿で今回の処遇改善Ⅱを捉えた場合、将来的に処遇改善Ⅱを廃止する、しないに振り回される必要性はありません。園は、国の要請を契機として、独自のキャリアパス制度を構築し、運用していけば良いのです。そして、たとえ処遇改善Ⅱという「お金」が消えたとしても、「自ら求めて得るべき報酬」である、「能力」「仕事」「人間的成長」というものを見失わなければ、職員の自律的成長を促すというキャリアパス本来の制度趣旨を捉えることができるのです。

ここまでをまとめると以下のとおりです。

処遇改善Ⅱ受給に際しては、園内でキャリアパス制度構築が必要です。
キャリアパス制度がなく、昇級・昇格ルールがないままに「かたちだけ」運用することは、職員の士気こそ下げるものの、上げることはないと思われます。
「副主任(格)」というポストを設置しなければならないが、設置するからには、権限と責任、役割を明確にするべきです。その際は、園長、主任の役割も含めて再整理することをお勧めします。
キャリアパスは、処遇改善Ⅱを契機として捉え、園内で整備するという姿勢が重要です。
そうであれば、たとえ処遇改善Ⅱが廃止されても、園内のキャリアパス制度は継続していけます。
一旦安易に認定してしまった場合、面倒でも原点に立ち戻って、園独自のキャリアパス制度設計から行うべきです。
「副主任」の役割のあり方から、園内のそれぞれの役割を考える。

園内の役割

次に、園内の役割を見ていきたいと思います。
ここでは、専門職については触れません。
あくまでマネジメントライン上である「副主任」を取り上げます。
専門リーダーなど、専門職については、通常は制度設計後すぐに「専門リーダー」が出現するというのは考えにくいと思われますし、副主任ほど大きな影響は持たないと考えます。(すべての職員は専門担当から専門分野のスキルを磨き上げていくことが通常モードだと思われます。)
これから述べる「役割」はあくまで参考事例だとご理解ください。当然ながらすべての園に妥当するようなものではありません。

□園長の役割

「子ども施設のこれから、園の将来を見据え、ビジョンに沿って舵を切る。」
「顧客満足度を最大化する。」
ここに専念すれば良いのだと思っています。
顧客とは、

子ども
保護者
地域
働く職員
これから働こうとする職員
この地域に住むすべての人・・・等
を言います。
これまで、ここを専従で考え、見つめる部門が園には少なかったのではないかと思われます。
「部下の仕事を上司がとってはいけない」とP.Fドラッカー氏は著書で述べておられますが、まさにそうなりがちな園運営において、園長の視点として「外」に置くことは重要だと考えます。

□主任

そうすると、主任は園「内」を見るという、園長と主任の役割分担ができます。
主任の役割は2つ検討しています。
1つは、本来の主任の職務である、

園内統括。
園長の決裁に関与。
園長の下した決定事項を園内全体に浸透させる。
副主任のマネジメント
副主任1名体制の時に、副主任の管理の及ばないフロア(以上児/未満児)のマネジメント。
それと、もう一つ、「専門部門(スタッフ職)」のマネジメントです。 副主任のマネジメントについて補足しておきます。
副主任配置で一番好ましいのは、主任の配下に以上児、未満児の副主任が各1名、合計2名配置される
ことです。そうすると、役割分担が明らかになります。
主任→ 未満児副主任
→ 以上児副主任
という体制です。
しかし・・・そうもいかない場合もあります。
詳細は、以下「副主任の役割」のところで述べます。

□副主任

上述したとおり、副主任は未満児・以上児の統括マネジメントを行います。
主任の下に2名配置が役割を明らかにする上では望ましいと個人的には考えますが、配置上一名しか配置しない(できない)園も多くあると理解しています。
その際に、園長→主任→副主任(1名)→クラスリーダーという配置はあまりお勧めしません。
理由は、主任と副主任の役割が曖昧になると考えるからです。
副主任1名の場合は、以上児か未満児のどちらかを統括するというのが現実的かなと思っています。
そして、副主任が未満児統括を行う場合、以上児統括は、主任が担います。
以上児担当副主任なのか、未満児担当副主任なのかは、その年の人員配置により、副主任が配属されるクラスが変わりますから、(副主任はクラスリーダーも兼務していると仮定した場合ですが。専属の際は
問題にはなりません)ある年は2歳児クラスで、未満児フロア統括。ある年は、4歳児で以上児クラスの統括となります。そうして、副主任不在となったフロアの統括を主任が担うということです。

園内の保育について、副主任が未満児担当の際は、以上児担当は主任、逆に自身が以上児担当の際は、
主任が未満児を担い、この二人で、園の保育全体をマネジメントしていくというイメージです。
副主任は主任配下です。

□クラスリーダー

クラスリーダーは、フロアリーダー(副主任もしくは主任)配下で、クラスメンバーのマネジメントを行っていきます。

愛され続ける園づくりを

このように、
園で独自のキャリアパス制度を構築し、その上で、
誰が誰をマネジメントするのか・・・ということを明確にした上で、職員にマネジメントの知識を習得させていくことで、キャリアパスを円滑に園内で運用していくことが可能となります。
職員のやりがいの創出や、園の質的向上を図っていきたいとお考えの園長先生は多くいらっしゃると思います。誤った情報に左右されることなく、是非ご自身の目と耳で正しい情報を収集され、少子化の中にあっても、愛され続ける園づくりを推し進めていっていただければと存じます。

今後の参考になれば幸甚です。

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