保育園、こども園の園長先生、主任先生、リーダーなど、職員育成を担当されている先生向けに、「職員育成・組織づくりの課題」について取り上げたいと思います。

ここは衆目の一致するところではないでしょうか。

もちろん「育成しないといけない」のは重々ご承知の筈です。

しかし・・・そこには、一般の企業などとは違う、「保育園・こども園特有の壁」があるのも事実です。

保育という仕事を通してどんな職員を育成したいのか

では、「保育」という仕事を通してどんな職員を育成したいのか(することが質的向上に寄与するのか)・・・・という観点で考えてみましょう。

求める職員像としては、以下のようなことが思い描かれるのではないでしょうか。

 職員が園の大切にしている想い、保育について正しく理解し、日々実践している。
 保育者として、必要最低限の知識や経験を有している。
(テクニカルスキル)
社会人としての常識や共に働く組織人として、そして、保育に携わる人として、素敵な人間性を備えている。
共に働く仲間として、気持ちよく仕事できる姿勢を有している。
笑顔、挨拶、礼儀、言葉遣い、返事、時間・約束を守る、思いやりの心、チームワーク、コミュニケーション力等
(ヒューマンスキル)そして、上記の職員を育成していくリーダーとして求められる力としては、
リーダーとして好ましい影響力を発揮し、チームをまとめ、職員を育成していくことができる力。
(マネジメント力)
 概ね、上記にようなことが挙げられると思われます。

養成校卒業直後の職員は、どのスキルも備えていないのが通常

では、養成校を卒業して、晴れて園の一員となる職員は、上記のうちどんなスキルを備えて入職してくるのか。せめて③と④くらいはある程度・・・と願いつつも、上記の①〜⑤のどれも身に付けてなどいないと考えたほうが健全です。

全てのスキルは、社会人として雇用された先で、業務を行いながら身に付けていくということ。

つまりは、引き受けた職員は、職場において上記の全てを磨く必要があると考えることが必要だと思っています。

しかし・・・

保育園・こども園では、即戦力が求められ、テクニカルスキルの育成・指導にしかアプローチしていない。(構造上の問題)
どの会社でも組織でも、即戦力になってほしいという要請はあるのですが、特に、保育園・こども園は人員配置上余裕がない場面が多く、職員のヒューマンスキルへのアプローチよりもむしろ、現場での業務遂行力を最優先に捉えてしまわざるを得ません。

入職して即クラスに配置され、先輩の下で「子どもたちとの関わりはどうすれば良いか」「どう向き合えば良いか」「子どもがこんな時はどう対処すればよいか」を中心に学ぶことになります。

これは構造上の問題ですから致し方ありありません。ですから、当然ながらヒューマンスキルへの対処は後回しになりがちです。

しかも、指導する先輩方も「業務遂行能力を優先的に教わってきた」が故に、ヒューマンスキルや組織人としての「いろは」の指導は、「その都度、気づいたら・・・」程度となってしまう傾向にあります。

教えてもらってこなかったが故に、教えられないのです。

この時期の保育者に、どんな保育者になりたいですか?と研修の中で質問をすると、多くの保育者は、

「保育の引き出しを増やしたい」というようなことを仰るのも、まずは現場での適応力や保育スキルに視線がいってしまうということを物語っているように思います。

つまり、保育園・こども園は、上記の必要なスキルの内、②(+①)程度しかアプローチできていないというのが現状ということです。

保育の専門的能力だけでは、保護者等周囲の人の信頼は勝ち取れない。
しかし、テクニカルスキルへの要請は、「内部における、望ましい保育者像のための要請であり、外部から見た、保育者に求めたいスキル」とはやや異にするものだと思われます。

もちろん保育の専門家としての最低限のスキルは身に付けておいてほしいというのは言うまでもありません。が、実は、テクニカルスキルよりもむしろ、ヒューマンスキルへの比重の方が高いというのは当然ではないかと思うからです。

いくら有能で、素晴らしい専門的能力を備えていたとしても、「人間的に・・・」では、とてもではないですが、自分の大切な子どもを預けたいなどとは思いません。

先ほどの保育者への質問の中で、皆さん一応に「保護者に信頼されたい」とも仰るのですが、それであれば、むしろ職員として、園として磨くべきものは上記③~④の、人間力と、それを指導する⑤のマネジメント力である筈なのです。

しかし・・・これが難しいのだろうと思います。

ヒューマンスキルをいかに磨いていけば良いのか。
 では、どうやってヒューマンスキルを培い、仕事のやりがいを見出していくのか、ですが、

このためには、正しいマネジメントの知識と仕事観をもったリーダーが職員を育成するという以外に歩法はないと捉えています。まずはリーダーの育成が大前提。

仕事を「教材(=教科書)」として、能力開発と人間的成長を図っていくという観点で、メンバーを厳しく指導し、成長しているという実感を感じさせてやりながら、同時に保育という仕事のすばらしさを身をもって伝えていけるリーダー層が不可欠です。

リーダーもテクニカルスキルの指導をだけをされて成長してきたことが問題

しかし・・・ここで大きな問題が立ちはだかります。

それは、育成を担ってほしいと期待するリーダー自身が、上記①と②(テクニカルスキル)しか学んでこなかったことです。

同時に、マネジメントの知識を習得する場もこれまでなかったということです。

つまり、そのような者にリーダーとして、好ましいリーダーシップを発揮せよと言うほうが酷ということです。

よく園にお伺いすると、「リーダーが育たなくて・・・」ということが話題に上がることがありますが、

それも至極当然の帰結ではないかと思います。

もうここまでくると、一旦はお手上げです。

メンバーのヒューマンスキルの向上や、それを担うリーダーのマネジメントスキルへのアプローチがなされていないので当然です。ですから、多くの園では、

職員の基本行動などは、親が家庭で教えるべきことだ・・・とか、養成校である程度指導すべきだ・・となって、責任の所在を「外」に見出してしまわれるのではないかとお察しします。

園は、まずはそのようなリーダー層の育成に励むべきです。

国のキャリアアップ研修で「マネジメント」を履修科目として要請されていることも、キャリアパス導入と併せて、これからの保育園には、必ずマネジメントの力が必要であることを示唆していると言えます。

早急に、かつ真剣にリーダー層の育成を捉えていく必要があります。

もう一つ、保育施設の育成には高い壁がある。
ここにおいて、園長が取るべき道は2つです。

一つは、何もしないこと。

そして、もう一つはリーダー層をしっかりとまずは育成することです。

つまり、⑤を担うリーダーを育成し、③~④の向上を図るのか。

しかし、またここで高い壁が待ち受けています。

それは、「保育」という世界は「女性が多い職場」だということです。

つまり、

「リーダー養成って言われても、女性の多い職場では、育成してもすぐ辞めてしまう・・・。」のです。

入職して、保育についての理解が進み、今度は指導層として期待する頃というのは、園によっても違うでしょうが、入職後5年~10年程度経過してからでしょう。その頃は結婚適齢期とも重なります。

結婚のお相手の住むところに移り住むために、退職を余儀なくされるというお話もよく聞きます。

これでは確かに「がっかり」です。「育成しても意味がない」と自暴自棄に陥られても仕方ありません。

育成には意味がないのか?

「どうせ結婚して辞められてしまうのでは、育成しても意味がない」そう考えてしまわれるお気持ちは

理解しつつ、では本当に育成に意味がないのか?を考えたいと思います。

一つは、組織としての社会的使命という観点からです。

少し綺麗ごとに映るかもしれませんが、人を人間的に育成し、社会に還元していくという組織のトップとしての役割という観点です。

加えて、たとえ短期であるかもしれませんが、マネジメントスキルに長けたリーダーの影響を受けた職員が、後を引き継いでいくという循環につなげていける可能性もあります。

また、何より、そんな状況下(退職していなくなってしまいがちになる組織の構造上の問題)にあってもなお、人を育成しようというトップの想いへの理解とうものは、自ずと組織に浸透していくと思われ

ます。何より、自分たち(職員)の幸せを心から願ってくれている園長への尊敬の念が、自分達もしっかりと成長していこうと意欲につながると同時に、「できるだけここで共に働きたい」を醸し出すことにつながる部分は十分あろうと思われます。これも綺麗ごとに映る内容かもしれませんが、働くメンバーは常にトップが私たち職員のことをどう見てくれているか、ということには非常に強い関心を示します。

日頃から、園長の想いがどこにあるのかを見定めようとします。

その意味で、人を大切にするという想いは、必ずや職員に浸透していくものと確信しています。

「一朝一夕にいかない」けれど
人づくりや組織づくりは一朝一夕にはいかないものだとつくづく思います。

私自身、恥ずかしながら、リーダーとして学ぶ機会を与えられながら、そんなことへのトップの願いや、

感謝の念を持つには、非常に長い時間を要しました。トップに対して、大変歯がゆい想いをさせてしまっていたと深く反省しています。いかにトップが覚悟をもって育成を試みても心が折れそうになる場面は多々あろうと思います。それでも組織を良くしたい。縁あって、ここに募った職員を幸せにしたいという願いは、いつの日が実を結ぶ日が来るだろうと思っています。

それと何より、職員育成に労を惜しまず、ご自身の使命を果たされることは、園長として、後悔のない職業人生を歩まれたとお感じになる日が来るものと考えています。

保育園・こども園だからこその様々な困難もあろうと思いますが、これから少子化を迎えるにあたっても、どんな時代にあっても、求められる園として在り続け、次の世代へと引き継いでいってほしいと願っています。また、多くの保育園・こども園が同じ課題を持って、手をこまねいている状況であることを踏まえると、やはり職員育成に真剣に取り組んでいくことが、他の施設との大きな差別化要因として位置づけることができると思われます。

その意味でも、まずは組織のリーダー層をしっかりと育成し、園の想いを伝え、マネジメントの原理原則を修得させ、後輩指導を通して、リーダー自身の成長と喜び、そしてその先にある「あるべき園の姿」

を見定めていってほしいと考えています。

株式会社SKSは人材育成コンサルティングと能力開発研修で
保育施設の課題解決をサポートします。