保育園、こども園の園長先生、主任先生、リーダーなど、職員育成を担当されている先生向けに、
前回に引き続き、キャリアパス制度と処遇改善Ⅱについて取り上げたいと思います。
前回の記事をまだ読んでいない方はこちらからご覧ください。
今回は「処遇改善Ⅱ」にスポットを充ててというアナウンスを前回にしてしまっていましたが、
引き続きキャリアパス制度のお話が主だった内容になりました。ご容赦下さい。
保育園・こども園のキャリアパスと処遇改善Ⅱの背景
国が保育園・こども園等の子ども施設にキャリアパス導入を推進する理由は、
・保育者の経済的地位の向上
・社会的地位の向上(職業としての「保育」のやりがいの創出等)
=保育者という職業の魅力の向上というのが第一義なのだろうと思われます。
少子高齢化の問題、年金の受け皿としての労働人口の確保の観点等から国としては、
「女性が子どもを産み育て、かつ働ける環境の創造」
が急務だと捉えているのだろうと。
そして、そのためには必然的に「子どもを預かってくれる施設」が必要になります。
つまりは、
保育園・こども園等の子ども施設の整備が喫緊の課題
ということです。
当然のことながら、その担い手としての「保育者」の確保が欠かせない・・・
けれど、
保育者のなり手が不足しています。
何故、保育士不足、保育教諭不足になるのか
一般的に言われているのは、
1.給与水準(処遇)が低い
2.成長実感が得づらい
3.組織がマネジメントされていない
成長実感が得づらい
・キャリア(経験や培ったスキル)に応じたポストが少ない。(現状は、園長・主幹(主任)以外ポストが存在しない。)
・年々ステップアップしていっている実感が得づらい、今後の人生の目標を設定しづらい。
・退職後のセカンドキャリアが描きづらい。
保育に関する様々な経験とスキルは有しているものの、
特に秀でた専門的技能を習得ているとは言い難く、
退職後(定年退職後など)のセカンドキャリアとして活用するには難しい。
という点が挙げられるかと思われます。
組織がマネジメントされていない
加えて、保育施設では園のトップが保育者に対して、現場における「保育」業務を優先してしまいがちです。
組織として保育者をマネジメントするという視点に乏しく、入職した保育者の能力開発や人間的成長を図っていくという視点が弱いということは否めません。
これらのことが保育者の成長実感やセカンドキャリアの形成を阻み、現在の「なり手不足」を生んでいる背景だと国は見ているのではないかと思われます。
ありていに申し上げると、
「保育(者)という職業に魅力がない」
ということです。
保育という職業に魅力がない。この問題をなんとか解決していくには
その問題解決の施策が、
保育園・こども園のキャリアパス導入と処遇改善策ということです。
キャリアパスを導入し職員の能力開発と人間的成長、セカンドキャリアの創出を推し進める園に対しては処遇改善を図っていきますよということです。
確かにこれをあくまで「お金」を出すための大義名分だとみる向きもあることは承知しています。
もしかしたらそれも一理あるのかもしれません。
しかし、いくら処遇面のみを向上させたところで、
職業としての保育者の魅力というものを高め、
その社会的地位の向上を推進していかない限り、
保育者不足はいつまでたっても解消されません。
結果、保育の質的向上さえ危ういものに陥ってしまいます。
今回の処遇改善Ⅱを単なる「お金のばらまき」で終わらせてしまうことは、
保育園・こども園自らが後世に負債を先送りすることに他なりませんし、
自ら保育の質的な低下を招いてしまうことになりかねません。
働く職員を幸せにし、それぞれの強みを活かした組織づくりと個々の人間的成長を図っていくことこそが、
保育という尊い仕事の魅力をより高めていくことにつながっていくものと思われます。
ですから、
今回のキャリアパス導入と処遇改善Ⅱをひとつの「契機」と捉え、導入を前向きに推進していくことこそが重要なのではないかと考えています。
実は、キャリアパスと処遇改善Ⅱという制度は、本当は園にとって非常にすばらしい制度です。
「制度だから・・・」
「園内に副主任を最低1名は任命しないといけないから」
・・・や、
「あなたは、一応食育リーダーね」
など場当たり的に任命し、形式だけ整え「手当」を支給していませんか?
単純に研修を受講し、園内における経験さえ積んでいれば、それで手当が支払われる制度というような短絡的な思考になっていませんか?
組織において預かる職員の人間的成長やセカンドキャリアを支援すること、
園の質的向上を図っていくという本来の制度趣意を理解し、
園内において運用していくことこそが私たちに求められている姿なのだと考えています。
今回のことを契機として、園の経営者の方が今一度組織の原点を見つめ直し、これからの世界を創る子ども達の輝かしい未来を思い描きながら、組織運営を改めてスタートさせていっていただければと思います。
保育園・こども園のキャリアパス導入、運用のステップ
そのためにはいくつかステップを踏む必要があります。
といって、このステップは難解なものでも面倒なものでもありません。
きっちりとステップさえ踏めばちゃんとかたちになっていくものです。
まずは、
①キャリアパスという「道具」のことを知らなければなりません。
一体この道具は何のためのものなのか?どう使用すれば、どんなことができるのか?を正しく知る必要があります。
②「道具」の担い手である「人」(園のリーダー的立場にある方)が以下のことを理解する必要があります。
・正しい使用方法
・使用上の注意
・使用するに際し、有しておくべき知識の習得
その上で、
③園におけるキャリアパス制度(道具)の構築(作成)を図ります。
・園にどのようなスタッフ職を設置するか?
・部門別リーダーから専門リーダーに昇格していくにはどのような「要件(ルール)」を設定するか、ライン職としての副主任保育士にはどのような園内における要件を設定していくのか。
・それぞれのスタッフ職にどのような職責を課していくのか。
・それぞれのスタッフ職、ライン職と処遇改善費をどのように関連付けるのか・・・等々です。
そして運用する過程で、
④「道具」であるキャリアパス制度を園に合うかたちに修正していく必要があります。
それと何よりも大切なのは、
⑤経営者自身のマネジメントについての正しい理解です
上記の①~⑤を順次もしくは同時進行的に、園の目指す理念とも照合しながら進めていけば、さほど苦労することなく運用するところまではこぎつけます。
※③の制度設計については園の目指す方向性により構築内容は園により異なるので、細かな記述は省略します。
運用していく過程で様々な修正課題は出てきますが、一旦運用するかたちを整えましょう。
キャリアパスと処遇改善Ⅱのまとめ
処遇改善Ⅱはあくまで「目の前にぶらさがった人参」です。
しかし、この「人参」を契機として捉え、組織を今一度見つめ直し、保育者のやりがいの創出を図っていくことこそが、保育の質的向上や、経営者としての喜びに必ずやつながっていきます。
キャリアパスを構築し、運用イメージさえできるようになると、園における手当の支給基準が整います。
基準さえ出来上がってしまえば、あとはその基準に沿って運用させていけばよいわけですから、都度都度鉛筆を舐めて頭を悩ませる必要もありませんし、人によって待遇が違うという不公平感に対抗する根拠にもなりえます。
繰り返しますが、単なる「お金のばらまき」に終始することなく、是非この機会をうまくとらえて、これからも一層愛される園づくりの機会として捉えていただければと考えています。
次回予告
次回は、実際にキャリアパス制度運用における課題と解決策等について話を進めていきたいと思います。
株式会社SKS代表。一般社団法人保育者人づくり協会代表。
全国約500ケ園での保育園・こども園の職員向け研修でのマネジメント講師。保育園の組織づくり人づくりのためのサポート。キャリアパス制度設計コンサルティングなどを担当。愛知県保育士等キャリアアップ研修マネジメント分野講師。奈良県保育士等キャリアアップ研修マネジメント分野講師。
株式会社SKSは保育園・幼稚園・認定こども園の
研修やコンサルティングを行っています。
園長先生の組織に関するお悩み解決のサポートをします。